人間そのものの呪いである真人は、「肉体と違って／魂は何度でも殺せる」（第31話）と言っていますが、実際に虎杖たちは何度も何度も魂を削られていきます。しかしそれでも、「正しい死」なんてありえないという冷笑主義・相対主義に陥らず、「正しさ」の理想を探し求め続けるところに、『呪術廻戦』の面白さがあります。
真人，即人类本身的诅咒，曾说：“与肉体不同／灵魂可以被杀无数次”（第31集）。事实上，虎杖等人的灵魂一次又一次地受到削弱。尽管如此，他们仍然在继续寻求“正义”的理想而不陷入“正确的死”什么的根本不存在这类的冷笑主义和相对主义，这正是《咒术回战》的魅力所在。

描かれる「組織」の問題
描绘“组织”的问题
人間にとって、死というものはままならない。正しい行いをした善人に、正しい死がやって来るわけではない。思えば私たちは東日本大震災の後で、あるいは現在の新型コロナの脅威の中で、思い通りにならず、ままならない死の残酷さ、理不尽さを日々経験してきました。『呪術廻戦』の世界にはそうしたリアリティがあります。では、理不尽で残酷で、ままならない不平等なこの世界の中で、それでも「少しでも多くの善人が平等を享受できるように」するには、どうすればいいのでしょうか？
对于人类来说，死亡是无法预料的。即便是行为良好的善人，也并不一定会迎来正义的死。回想起我们在东日本大地震后，或是在当前新型冠状病毒的威胁下，我们都经历了无法理解、无法接受的死亡的残酷和不公。《咒术回战》的世界也存在这样的现实。那么，在这个不公平、残酷、无法接受的不平等世界中，要如何实现“让尽可能多的善人享受平等”呢？

『鬼滅の刃』では、人間の組織（鬼殺隊）と鬼の組織の対決は、基本的にははっきりとした善／悪（味方／敵）の二元論を形作っていました。これに対し、『呪術』ではむしろ、人間vs呪霊の対立よりも、人間vs人間の戦い（そもそも人間と呪霊の関係をどう考えるか、という人間同士の思想の違い）がポイントになっています。
在《鬼滅之刃》中，人类组织（鬼杀队）与鬼的组织的对抗基本上形成了明确的善/恶（盟友／敌人）的二元论。与之不同，比起人类与咒灵的对抗，《咒术回战》更加强调的是人类与人类之间的斗争，（实际上是关于人类如何看待与咒灵的关系，即人与人之间思想差异的问题）。

呪術高専という組織の中には、旧態依然たる保守的な上層部の人々と、五条悟を筆頭とする革新派の教員たちの間に、確執や対決があります。たとえば五条先生は、一年生の虎杖たちを危険な場に派遣し、ひそかに始末しようとした上層部に対し、「上の連中／全員殺してしまおうか？」という激怒の感情を露わにします（第10話）。
在咒术高专这个组织中，存在着保守的高层人物与革新派教员（以五条悟为首）之间的矛盾和对抗。例如，五条老师对将一年级的虎杖等人派往危险的地方，暗中置之死地的高层，表达了“要全部杀掉那帮人吗？”这样的愤怒情绪（第10话）。

上層部は「保身馬鹿　世襲馬鹿　高慢馬鹿　ただの馬鹿　腐ったミカンのバーゲンセール」（第11話）だ、とも罵倒しています。五条は冗談めかして「僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」と言ってもいますが、これがたんなる軽口でないことが段々わかってきます。
高层被痛骂为是“自私的蠢货、世袭的蠢货、傲慢的蠢货、只是蠢货、就像腐烂橘子的廉价大甩卖”（第11话）。虽然五条以玩笑的口吻说：“我一直是个为学生着想的好人”，但渐渐地我们发现这并不仅仅是个笑话。

あるいはまた「御三家」と呼ばれる呪術界のエリート家系の一つ、「禪院家」の存在は、優秀な「血」の血統を重んじたり、女性をたんなる妊娠・出産のための道具のように扱ったりと、非常にわかりやすく、旧式の腐敗した価値観を象徴するものになっています。呪術高専内部の保守派の老人たちと禪院家の存在は、近年のＰＣ（ポリティカル・コレクトネス）や#metoo運動の「敵」になるであろう、古くさい価値観の象徴とも言えます。
还有被称为“御三家”的咒术界精英家族之一，"禅院家"的存在，强调对优秀的“血”的血统的重视，将女性视为仅仅用于怀孕和分娩的工具，非常明显地象征着陈旧且腐朽的价值观。咒术高专内的保守派老人们与禅院家的存在，可以说是代表着古老观念的象征，可能成为近年的PC（政治正确）和#metoo运动的“敌人”。

次のような印象的なシーンがあります。五条は、保守派筆頭の京都校学長が「やれやれ最近の若者は敬語もろくに使えんのか」と言ったのに対し「ハナから敬う気がねーんだよ／最近の老人は主語がデカくて困るよホント」（第18話）と反論するのです。そのうえで、「アンタらがしょーもない地位や伝統のために塞き止めていた力の波が／もうどうしようもなく押し寄せてんだよ」と主張します。
下面是一个令人印象深刻的场景。在对抗保守派代表京都校校长“哎呀，最近的年轻人连敬语都不会用了吗？”时，五条回应说：“我根本没有想要尊敬你们的心情／最近的老人太自以为是了真让人困扰”（第18话）。接着，他坚称：“你们为了这些无聊的地位和传统而封锁的力量的浪潮／已经不可抗拒地涌来了。”

五条先生の「夢」は、じつは、「クソ呪術界をリセットする」ことにあります。「上の連中を皆殺しにするのは簡単だ／でもそれじゃ首がすげ替わるだけで変革は起きない／そんなやり方じゃ誰も付いて来ないしね／だから僕は教育を選んだんだ／強く聡い仲間を育てることを」（第11話）。そしてこうした「大人」としての責任は、五条先生ひとりのものではありません。
五条老师的“梦想”实际上是“重置这个该死的咒术界”。他说：“干掉上面的家伙们很容易／但那只是换了一批领导层，并不会有实质性的改变／那种方式谁都不会跟随我／所以我选择了教育／培养强大而聪明的同伴”（第11话）。而这样的“成人”责任，并不仅仅是五条老师一人的责任。

五条 vs 夏油、考え方の違い
五条v.s.夏油，思考方式的不同
そもそも、人間と呪霊をめぐる『呪術廻戦』の中のシステム的な矛盾とは、次のようなものでした――人間から漏れ出した負の呪力が折り重なって、呪霊が生まれる。呪霊は人間に害をなす。呪術師は命がけで呪霊を祓う。しかし、この「マラソンゲーム」には終わりがあるのだろうか。「その果てにあるのが／呪術師の屍の山だとしたら？」（第77話）。こうしたシステム上の大きな矛盾に対し、若い頃に大きな失敗を経た五条悟とその親友である夏油傑【げとう・すぐる】は、それぞれに異なった結論に行き着きます。
首先，《咒术回战》中关于人类和咒灵的系统性矛盾，主要表现为以下几点——负面咒力从人类中泄漏出来，交错在一起，产生咒灵。咒灵对人类造成危害。咒术师冒着生命危险祓除咒灵。然而，这个“马拉松游戏”会有终点吗？“那终点是／咒术师的尸体山吗？”（第77话）。对于这种系统上的巨大矛盾，年轻时经历了巨大失败的五条悟和他的好友夏油杰分别得出了不同的结论。

夏油は呪術師としての仕事の中で、守るべき人間たちの愚かさに直面し続けて、次第に精神の限界を迎え、呪力を持たない一般人は「猿」であり、「猿」どもを皆殺しにし、呪術師たちの理想的世界を作る、という極端な方向へと突き進んでいきます（これは同じ郷土の仲間たちを迫害から守るために、自分たちの島以外の世界中の人間を皆殺しにすることを選ぶ、という『進撃の巨人』のエレンの決断を思わせます）。
夏油在作为咒术师的工作中，不断面对着需要保护的人类的愚蠢，逐渐到达精神的极限，认为没有咒力的普通人就是“猴子”，要杀光这些“猴子”，创造咒术师们理想中的世界，走向了极端的方向（这与为了保护同胞而选择消灭除了自己岛屿以外世界上的所有人类的《进击的巨人》中的艾伦的决定相似）。

これに対し、五条悟は、古臭いシステムとも対決しつつ、親友だった夏油のような殲滅ルートに行くことも回避しようとします。たとえばかつての七海は、同僚を失い、自分も眼に怪我をした時、「もうあの人（五条）1人でよくないですか？」と根本的な疑問を口にしていました（第77話）。しかし、組織の保守化と腐敗を変革するには、一人だけ最強であってもダメなのです。「俺だけ強くても駄目らしいよ」（第78話）と五条は言います。
与之相对，五条悟既与陈旧的系统对抗，又试图避免像夏油一样选择毁灭的道路。例如，曾经的七海在失去同僚，自己也受伤的时候说：“让那个人一个人（指五条）来就足够了吧？”表达了根本性的疑问（第77话）。然而，要改革组织的保守化和腐败，仅仅只有一个人是最强也是不够的。“就算只有我强大也没用啊”（第78话）五条如此说。

五条は生徒から大人の先生になって（一人称が「俺」から「僕」になります）、システム全体と戦うための優れた戦力となりうる生徒たちを育てるようになります。そもそも五条は無神経で、傲慢な人間であり、他人の気持ちもわからないために、普通の意味では教師に向いた人間とも思えません。それにもかかわらず、あえて大人として、教師として振る舞おうとするのです。
五条从学生到成为大人的老师（第一人称从“俺”变为“僕”），开始培养能够与整个系统战斗的能够成为优秀力量的学生。首先，五条是一个无神经和傲慢的人，不理解他人的感受，从一般意义上来说，并不是一个合适做教师的人。尽管如此，他仍然刻意地摆出一副大人、老师的架子。

こうして見てみると、『呪術廻戦』という作品には、個人にとっての死がつねに理不尽であるということを指摘するだけではなく、世の中の人々に対して死が不平等に理不尽に与えられてしまっているという状況（システム）、それ自体を根本的に変革したい、というモチーフがあるように思われます。
由此可见，《咒术回战》这部作品不仅仅指出个人死亡经常是不讲理的，还揭示了对于整个社会中的人们来说，死亡是被不平等地不讲理地赋予的这一情况（系统），并试图从根本上进行变革这种主题。

『ワールドトリガー』との異同
与《境界触发者》的异同
ちなみに五条先生のポジションは、葦原大介の作品『ワールドトリガー』において、未来予測というチート能力を持った迅悠一【じん・ゆういち】のポジションに似ているように思えます。迅もまた、全体の状況を見渡すために暗躍しながら、後続する若者たちを育て、組織全体の底上げを果たそうとします。
顺带一提，五条老师的地位似乎与葦原大介的作品《境界触发者（World Trigger）》中具有未来预测这一作弊能力的迅悠一的地位相似。迅也是如此，为了纵观全局，他在暗中行动，培养后继的年轻人，提升整个组织的下限。

かつての大規模戦争によって多数の犠牲を出したという失敗を繰り返さないために、どのような組織やシステムを構築すればいいのか。若者や子どもたちの犠牲を出さずにすむのか。『ワールドトリガー』の世界では、迅のみならず、様々な人々が各々のやり方によって、大人の責任としてそのことを真剣に考え続けています。
为了避免重蹈过去大规模战争造成了大量牺牲的覆辙，应该构建怎样的组织或系统？如何避免年轻人和孩子的牺牲？在《境界触发者（World Trigger）》的世界中，不仅是迅，许多人都通过各种方式，根据各自的方法，认真思考作为成年人的责任。