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第868话 血に染まる大草原
 新阳の月7日。パルティアの草原。
 头上に広がるのは抜けるような晴天で、目の前には地平线の彼方まで続く绿の绒毯。青と绿の鲜やかなツートンカラーの光景は、大自然の雄大さと美しさを现わしているが、
「はぁ……とうとう来ちゃったよ」
 どこまでも重苦しい溜息を、リィンフェルトは吐き出す。今の彼女には、そんな感动を味わう余裕など欠片もなかった。
 ケンタウロスの国パルティア。彼らが支配する広大な大草原にやって来たのは、観光ではなく、戦争のためなのだから。
「おいリン、そんな心配すんなよ。お前のことは、ちゃんと俺らが守ってやるからさ」
「……はぁあああ」
「そんなあからさまに重い溜息吐くのは酷くねぇか!?」
「前の护卫にも似たようなこと言われて、私は捕虏になったんだからねー」
 ふくれ面でリィンフェルトは、今回の护卫となるウルスレイを睨んだ。
 セントユリア修道院で司祭を务める、褐色肌に银色の髪というイヴラーム人の特徴を持つ男だ。修道院育ちで、みんなからはウルと爱称で呼ばれている。
 纯白の十字教の法衣を身に缠っているが、司祭につきものの洁癖さや偏屈さなく、その育ちと生来の性格である快活な明るさから、リィンフェルトはすぐに彼とは打ち解け、すっかり気の置けない仲になっている。
「リン姉さん、仆も顽张るから、安心してください!」
「あー、ありがとねー、レキは本当にいい子だわー」
 フワフワとした金髪头をリィンフェルトは饲い犬の如く抚でまわす。
 小柄で华奢な色白の男の子、レキトリウスはこんな成りでも护卫の一人に选ばれている。
 その理由をリィンフェルトはすでに知っているし、纳得もしていた。獣と恐れられたバルバトス人の力を见せられれば、是非もない。
 见た目は爱玩用の子犬のような男子だが、中身は猛獣そのものである。
「俺とは対応が全然违うじゃねぇか」
「当たり前でしょ、良い子には优しくしてあげるの」
「司祭になった俺は良い子のお手本じゃん?」
「うるせー不良司祭が。破门されてーか」
「うわっ、圣女様が言うと冗谈になんねーぞ」
「圣女言うな……はぁあ……」
 ヘルベチアの圣少女、などと祭り上げられて十字军のパンドラ远征なんぞに従事させられてしまったばっかりに、こんな事になってしまったのだ。
 セントユリア修道院で世话になってからは、これからは昔の孤児院暮らしと同じように、身分を弁え慎ましやかに生きていくの、そして将来は温かい家庭を筑いて小さな幸せを得るの、と思って新生活をスタートさせたのだが————アリア修道会のグレゴリウスという狐面の男が现れたせいで、立场は一変。
 うっかりクロノ本人に正体がバレてしまったせいで身の危険を感じた理由も大きいが、リィンフェルトは白き神より『圣堂结界サンクチュアリ』の力を授かった圣人、『アヴァロンの圣女』として再び祭り上げられることとなってしまった。
 そんな彼女はネオ・アヴァロンとして新生させた圣王ネロ率いる、悪しき魔王を讨つための大远征军に従军している。
 この状况下となってしまっては、第十三使徒として覚醒したネロの傍にいるのが最も安全であり、ネロ自身が强くそう望んでいる。ガラハド戦争の时のように、『圣堂结界サンクチュアリ』を前面に押し出した作戦をネロが采用することはないだろうが、何が起こるか分からないのが戦争の恐ろしいことである。
 事実、胜利は确実と谣われたガラハド戦争で父が率いた十字军は败走。绝対无敌の『圣堂结界サンクチュアリ』に守られるはずだった自分も、恐ろしき『黒き悪梦の狂戦士ナイトメア・バーサーカー』によって囚われた。今でもたまに、あの时の悪梦にうなされることがある。リィンフェルトのトラウマだ。
「んっ……ウル兄、騒がしくなってきたよ」
「そうか、いよいよだな」
 ハっとしたように颜を上げたレキトリウスに、普段の軽い态度からキリリと表情を引き缔めたウルスレイが答える。
 そしてリィンフェルトも素人ではない。ほどなくして、草原を行く大远征军は俄かに騒がしくなった。
 闻こえてくる言叶は————敌影、见ゆ。
「うわぁ……めちゃくちゃイッパイいるんですけどぉ……」
 あれよあれよという间に、大远征军とパルティア军は広大な草原にて対峙することとなった。
 互いに五万近い大军を动员しており、歴史に残る一大决戦の様相を呈している。
 ネロの大远征军は、主力となるネオ・アヴァロン军が约三万。それからレムリア海を渡った先で合流した、圣杯同盟を结ぶ都市国家の兵力は、合わせて一万五千ほど。
 総势四万五千の大军だが、総大将にして使徒であるネロ。そして空中要塞ピースフルハートを大空に浮かばせる第十一使徒ミサ。二人もの使徒と空飞ぶ古代兵器を拥する大远征军は、単纯な兵数だけでは测れない强大な戦力を有する。
 一方、パルティア军は総势で六万に近い大军势を集结させていた。
「やっぱケンタウロスってデカいわ。あんなの沢山いすぎて怖いっていうかキモい。もうマジ无理帰りたい……」
 ガラハド戦争には様々な种族の兵士が参加していたが、ケンタウロスはいなかった。
 上半身は人间、下半身は马という有名な姿に伪りはない。集ったパルティア军は国中からかき集めた精锐兵である。谁もが筋骨隆々の肉体に、逞しくもしなやかな马体を备えている。
 当然のことながら、马の下半身を备えている以上、その体躯は人间を大きく越えている。子供のケンタウロスでも、体重は优に100キロを超す。成人すれば300キロを越え、草原で杀気立っている锻え上げられた精锐兵ともなれば500キロ近くにも至るであろう。
 それはすなわち、パルティアの全军が骑兵であることを意味している。
 さしもの十字军であっても、6万もの骑兵を揃えるのは非常に难しい。
「余はパルティア大王、ボルグモア・マ・タルカン・パルティアである!」
 骑兵の大军団から、前へと进み出て来たのは鲜やかな青と煌びやかな黄金で彩られた、壮丽な铠兜を缠った男だ。
 精锐兵と并び立っても见劣りしない立派な体格は、派手な铠と相まって远目でも目立つ。
 高々と掲げられた旗持ちを左右に控えさせ、堂々と前へと出てきたボルグモアは、王に相応しい风格を漂わせていた。
「强欲なアヴァロン人共よ、また性惩りもなく大草原に足を踏み入れるとは————圣アヴァロン王国が灭びた戒め、とうに忘れ去ったようだな!!」
 圣アヴァロン王国は、现在の都市国家アヴァロンが成立する前にあった国家である。アヴァロンとしては忘れ去りたい、忌まわしき古の王国でもあった。
 暴君マクシミリアン。
 自らを魔王の再来と称し、际限のない侵略戦争を缲り広げ、一时はパンドラ大陆の三分の一までをも制した王である。
 暴君とは圧政を敷くからこその蔑称だが、圣アヴァロン最后の国王マクシミリアンに限っては、自らが暴虐の限りを尽くす王という意味となる。
理性を失ったとしか思えない、狂気的なまでの戦いぶり。兵も民も区别なく、老若男女等しく杀戮を行う虐杀者。しかし、恐ろしく强い。祸々しい黒き大铠は、当时はこの上ない恐怖の象徴として君临していた。
 だが无制限に侵略の魔の手を伸ばした结果、圣アヴァロン王国は各国连合に包囲され、ついに限界を迎える。
 パルティアの大草原で杀戮の限りを尽くした凶悪な圣アヴァロン兵を、正しく复讐に燃えたケンタウロス达が逆袭し、全ての领土を取り返すに至る。
 その最后にして最大の戦いの舞台となったのが、レーベリア平原と名付けられたパルティア北部一帯の草原地帯。つまり、この场所である。
 一度は侵略と占领を许したため、パルティアのケンタウロス达はいまだにアヴァロン人を敌视する倾向も强い。そして、そんな悪しき侵略者を返り讨ちにした自分达を夸りにも思っている————故に、パルティア军の士気は最高潮にまで高まっていた。
 あのアヴァロン人共が、再びパルティアへ牙を剥いたのだ。今こそ、遥か数百年も前の伝说を、现代へ苏らせる时。邪悪なる侵略者を成败するのは、自分达である。
 広大な草原がそのまま巨大な领土となっているパルティアは、ケンタウロスの氏族が几つも乱立しており、それぞれ游牧生活を行っている。パルティアの国王となる大王ボルグモアであるが、有力氏族の连合、その中での盟主という立场が実际のところだ。各氏族に対して绝対的な命令権を有してはおらず、日夜、互いの利害冲突に镐を削っているのだが……あのアヴァロンが攻めて来たとなれば、话は别である。
 全氏族が大王ボルグモアの名の下に一致団结して协力体制を确立。
 瞬く间にパルティア中から、我こそはと名乗りを上げる猛者达が集结した。各氏族もここで戦功を上げれば一跃、影响力を高められるとして、惜しみなく最精锐と最大兵力を送り込んでいる。
 かくして现代のパルティアにおいて実现しうる最大最强のケンタウロス军団が、今ここに集结していた。
「ここはパルティア、我らケンタウロスの土地なり! 贵様ら钝足な人间如きに、我らの草原は広すぎる。身の程を弁え、今すぐアヴァロンへ帰るならば、夸り高き我らがその背中を袭うことはないであろう」
 大王ボルグモアの言叶に、パルティア军は大いに沸き立っている。
 帰れと叫ぶ者もいれば、さっさとかかって来いと怒鸣る者。様々な反応だが、ケンタウロスの谁もが侵略者たる自分达を心底憎み、杀し尽くしてやるという强烈な戦意が伝わって来る。
 今にも势いに任せて、全军が突撃でもしてきそうなほどの気迫に、大远征军の兵士达は気圧されたような雰囲気を漂わせていた。
「えっ、ちょっと、これ普通にヤバくない?」
「いや、ヤバくねーよ。见ろよリン、ネロが出るぜ」
 だだっ広い草原のど真ん中に阵形を组んで结集している大远征军。その中央が俄かに割れて道を作って行く。
首都の大通りほどにまで広がったその道を、ネロは単骑で悠々と歩みを进めていく。
爱马であるユニコーンに跨り、壮丽な白银の铠と辉くような青いマントを缠っている。
 ただの骑士ではない。あれこそが军を率いる王である。パルティア军の将兵は谁もが、一目でそう察した。
「よく闻け、パルティアの马ども。一度しか言わん————退け」
 圣王を名乗る総大将の登场に、一时は黙ってその声に耳を倾けたパルティア军は、あまりにも傲岸不逊な物言いに绝句した。
 自らの正当性を主张するわけでも、戦力の强大さをアピールして降伏を呼び挂けるでもなく。道端に転がる奴隷にでも言うかのような言叶であった。
「俺は先を急いでいるんだ。お前らのような雑鱼に构っている暇はない」
「……小僧ぉ、戦の作法も知らんと见える。贵様のような礼仪知らずの无礼者は初めてだ」
 静かに怒気を迸らせて、大王ボルグモアが言う。
 その反応に、ネロはどこまでも面倒くさそうに吐き舍てた。
「やれやれ、马の耳に说法かよ。やっぱ**如きに、人の言叶は分からねぇか」
「かような愚か者に国を夺われるとは、耄碌したなミリアルドめが。我らへの愚弄、断じて许し难い。暴君マクシミリアンと同じく、このレーベリアの地で讨ち取ってくれる! 全军、突撃————」
「黙れ。そして消え去れ————『圣者の铠ジークフリート』起动」
「『GX―7』マスターキー认证。创世主机アルファドライブ・解放イグニッション」
 ネロが身に缠った铠、かの暴君マクシミリアンを讨ち果たした伝说の骑士が着用していた国宝の古代铠である。そこに秘めた力を解放するための铠の声が响くと共に、纯白の神鉄オリハルコン装甲に青白く辉くラインが浮かび上がる。
 同时に、青いマントをはためかせながら、全身から吹き上がるのは使徒の证であり力の発露たる、白银のオーラであった。
「抜刀、『圣霊刀「神白星」』————『圣剣ブレイドスキル・光辉』」
 音もなく抜き放たれたのは、爱刀たる『霊刀「白王桜」』が、使徒の力によって进化を果たした『圣霊刀「神白星かみしらほし」』。その美しく辉く白刃には、途辙もない白色魔力が涡巻き、ネロが最も得意とする光属性の光刃フォースエッジを形成する。
 使徒の无尽蔵に涌き上がる白色魔力を膨大な量を注ぎ込んで発动させたソレは、刃というよりは光の柱、いいや、巨大な光の塔である。
 その高さは天を冲くが如し。天高く翳された巨大な光の大剣は、そのまま振り下ろすだけで、いまだ互いに弓や攻撃魔法の射程に入らないギリギリの距离に対峙していたパルティア军にも届くであろう。
 その常识外の威力と射程を夸るネロの神业に、大王ボルグモアは危机を察知し身を翻すが、もう遅い。
 ついに头上から、あまりにも巨大な光の刃が、天の裁きが如く振り下ろされ————
 新阳の月10日。
 パルティアの首都バビロニカは燃えていた。
 夜空を焼き焦がさんばかりに激しく燃え盛る火灾が方々で巻き起こっている。石造りや木造建筑に加えて、游牧民特有のテントが住宅地として无数に张られている首都は、殊更に火の回りが早かった。
 しかし、最も恐るべきは炎ではなく、人间。
 自ら火を放ち、手にした刃で杀戮の限りを尽くす。夺い尽くし、杀し尽くし、焼き尽くす。正しく侵略者のお手本のような行动であった。
 首都バビロニカに、杀戮の岚が吹き荒れる。
 忌まわしきアヴァロンの侵略者たる大远征军に対し、大王ボルグモア率いるパルティア军は、レーベリア平原にて惨败を吃した。
 第十三使徒ネロの圧倒的な威力の魔法剣を正面から叩きこまれ、上空からはミサの操る空中要塞と、そこから飞来するアヴァロン最强の竜骑士団が袭い挂かる。
 使徒の夸る绝大な火力と、润沢な空中兵力を活かした攻撃により、6万もの大军も耐えきれず崩壊した。ネロの初撃で総大将である大王が讨ち取られたのも大きかっただろう。
 各有力氏族の长が将军として配下を取りまとめ応戦したが、全军の指挥系统が寸断された以上、各个撃破されてゆくのみになってしまった。
 パルティアの総力を挙げて结成した大军が真正面から撃ち破られた以上、最早、大远征军を止める戦力はどこにも残されていなかった。
 そして、アヴァロンやスパーダといった大城壁を备える要塞都市とはなっていないバビロニカは、押し寄せてきた大远征军を前にかくも容易く蹂躙を许すに至った。
 一夜にして地狱と化したパルティアの首都を、ネロはどこまでも冷めた目で遥かな高みより见下ろしていた。
「————ったく、派手に騒ぎやがって。ミサ、こいつはテメェの趣味か?」
「だってこの街、马の魔物ばっかりで気持ち悪いんだもん」
「谁がここまでやれと言った」
「いいじゃない、どうせ魔族は灭ぼすんだし。使徒として真面目にお仕事した结果よ。アンタも少しは、神様にご奉仕したらどうなのぉ?」
「兴味ねぇな。俺はただ、俺の邪魔をする奴らを退かせただけだ」
「この不心得者めー」
 上机嫌にミサはケラケラと笑い声を上げながら、ネロの隣で燃え盛る首都を见下ろした。
 二人がいるのは、バビロニカ上空に待机させている空中要塞ピースフルハートの宫殿である。洒落た造りの大きな窓からは、夜暗の中で赤く燃える首都の様子がよく见えた。
「一応、ここは拠点として利用する予定だ。何でもかんでも燃やし尽くして、更地にするんじゃねぇぞ」
「そんなこと私に言われても。下で騒いでいるのはアンタの兵じゃない」
「最初に街のど真ん中に降り立って、騒ぎ始めたのはテメーだろうが」
「お阴で早く片付いたでしょ? もっと感谢してもいいのよ」
 悪びれもせずに、ミサはドヤ颜で言う。
 集结していた首都の防卫戦力を、ミサが単独で突っ込んで搅乱した结果、ただでさえ楽に落とせる首都攻略が、さらに楽になった。
 その一方で、楽胜ムードとミサが杀戮に兴じる势いに、攻め込んだ多くの兵士达が饮まれてしまうのだった。扇动し始めたミサ本人が饱きてピースフルハートに戻って来てからも、残虐な冲动と欲望に突き动かされた兵士达が止まることはなかった。
「ふん、まぁいい。俺がここの后始末をするわけじゃねぇしな」
「そうそう、面倒なことは他の奴らに任せておけばいいのよ。だから私达は、さっさと先に进みましょ。次はドワーフがいる国だっけ?」
「パルティアは広い。縦断するには、まだ几つか街を落としていかなきゃならねぇぞ」
「ええー、面倒くさぁーい。先に乗り込んで溃してきてあげよっか? 私、そういうの得意なんだよねぇ」
「焼野原ばっかにされても困るんだよ。パルティアが落ちて、方々から援军も来るしな。暴れたいなら、俺らの进行ルートから少し外れたところでやってくれ」
「んもー、家主に注文つけ过ぎじゃなーい?」
「悪いな。だがお前が思ったよりも协力的で、助かっている。感谢してるぜ」
 ミサが奔放で気分屋な性格なのは分かり切っていたため、当初は全くアテにしていなかったのだが……意外にも、ミサはネロの要望通りに、空中要塞ピースフルハートの全面的な利用を许したのだった。
 大量の物资の搭载に、ネロを笔头とした大远征军を指挥する司令部もここに置いている。空の上という绝対的な安全圏であり、かつ移动も出来る空中要塞は途辙もない戦术优位だ。
 何より、アヴァロン最强の竜骑士団『ドラゴンハート』の基地として利用できるのが、こと远征においては効果的に働いた。骑马を连れていくだけでも大変なのだ。骑竜ともなれば尚更。
 飞竜とて、常に空を飞んでいるわけではない。休む时は地上に降りねばならない。自国内の基地なら何の问题もないが、远征先の敌地となれば、地上にいる时のリスクは跳ね上がる。
 どこの军でも切り札たり得る竜骑士ドラグーンを、飞ばずに仕留められては堪ったものではない。だが敌からすれば、相手が竜骑士を抱えていると知れば、无理にでも地上にいる间に袭って、一骑でも数を减らそうと狙うだろう。
 马鹿正直に飞んでいる竜骑士を相手にするのは、あまりにも分が悪い。
 だが空中要塞に竜骑士団を丸ごと抱え込んでいれば、安全面は勿论、戦场への速やかな展开も可能となる。一时的に帰还しての补给も容易だ。
 贵重な空中戦力である竜骑士団を、最も効率的に运用するには、この空中要塞を拠点とするのが一番であると、ネロはすぐに考え付いた。そして、その有効性は先の一戦にて见事に证明されていた。
 空中要塞ピースフルハートは、本来は『天空母舰』というのが正式な名称である。古代においても、数多の空飞ぶ兵器を格纳した动く要塞。ネロの竜骑士団を乗せる构想は、本来あるべき正しい运用法であったと言えよう。
 もっとも、ネロにとって一番ありがたいと思っているのは、远征先でも快适な宫殿暮らしを、爱するリィンフェルトにさせてやれることだが。
「フツーはこんなことしないけどね。でも、アンタが头下げてお愿いされたら、闻いてあげてもいいかなって気にはなるわよ」
「そいつは光栄だ。そんなに気に入られているとはな」
「うん、结构アンタのことは好きよ。颜もイイし」
「俺はお前みたいなワガママ女は绝対に御免だがな」
「本当に魅力的な女ってのはね、自分の自由な意志で动ける者のことよ。男に媚びへつらうだけの従顺な女なんて、反吐が出るわ」
「それがお前の哲学か。けど、それで好き胜手に振り回される方の苦労を、少しは分かってやれよ」
「そう、だからアンタのこと気に入ってるの。面倒くさいしがらみを全部舍てて、やっと自分の好き胜手している、今のアンタがね」
「お前と一绪にするなよ……そんなに胜手な奴が好きなら、アイとかいうもっと胜手な奴がいるだろうが」
「アイ先辈は私より好き胜手やってるから気に食わない。あとなんかちょっとウザい」
「そこは同感だな」
 ネロにとってアイゼンハルトは、数少ない尊敬できる年上の男であった。スパーダでは世话になったことも几度となくある。
 しかし、そんなスパーダが夸る第一王子も、今や第八使徒アイに体の全てを夺われ、その気高い魂は失われてしまった。
 别人となってしまったアイゼンハルトの姿に、思うところがないわけでもない。しかし、それも全ては戦いの结果である。使徒という神の遣いに逆らった者の末路としては、半ば当然といってもいい。
 しかしながら、それを差し引いたとしても、やはりアイ自身はウザいなぁ、と思うネロであった。


IP属地:北京1楼2022-03-20 09:53回复