五輪の開幕が迫る東京・臨海部を歩いた。目に飛び込んできたのは、迂回(うかい)路や駐車場閉鎖を知らせる数々の看板。栃木、大阪、佐賀など遠方から動員された警官とすれ違う。選手村には韓国とクロアチアの国旗が▼
先月読んだニューヨーク・タイムズの記事が頭をよぎった。「五輪を中止すると、菅首相は政治的に溺死(できし)する」「東京で感染が急拡大すれば、『ゴジラ変異株』と呼ばれるかも」。表現はともかく、痛いところを突いてくる▼
83年前、同紙はもっと激しい筆致で日本を批判した。「東京で五輪が開催されるなら、参加拒絶で米国民の道徳的判断を示そう」。①、②、③へと④を進める日本が「平和の祭典」を開くことを難じた▼
当時、日本国内では⑥が公然と五輪に背を向けていた。人も金も鉄も持てる資源はすべて⑦に投入すべしとの機運が高まり、第1次近衛内閣は⑧年7月15日、五輪返上を閣議で決定した▼
五輪を断念し、戦争へと突き進んだ過去を肯定することはできない。だが民の思いには共通するところもあるような気がする。このご時世、大がかりなスポーツ行事を開いている場合かという素朴な疑問。あるいは五輪が本当にやってくるという現実感の乏しさだろうか▼
開会式を待つ新国立競技場へ足を伸ばした。荘厳な調べが歩道にまで響く。リハーサルのさなからしい。立ち止まってしばらく耳を澄ませてみた。それでも実感は湧いてこなかった。この街で1週間後に五輪の幕が上がる。
先月読んだニューヨーク・タイムズの記事が頭をよぎった。「五輪を中止すると、菅首相は政治的に溺死(できし)する」「東京で感染が急拡大すれば、『ゴジラ変異株』と呼ばれるかも」。表現はともかく、痛いところを突いてくる▼
83年前、同紙はもっと激しい筆致で日本を批判した。「東京で五輪が開催されるなら、参加拒絶で米国民の道徳的判断を示そう」。①、②、③へと④を進める日本が「平和の祭典」を開くことを難じた▼
当時、日本国内では⑥が公然と五輪に背を向けていた。人も金も鉄も持てる資源はすべて⑦に投入すべしとの機運が高まり、第1次近衛内閣は⑧年7月15日、五輪返上を閣議で決定した▼
五輪を断念し、戦争へと突き進んだ過去を肯定することはできない。だが民の思いには共通するところもあるような気がする。このご時世、大がかりなスポーツ行事を開いている場合かという素朴な疑問。あるいは五輪が本当にやってくるという現実感の乏しさだろうか▼
開会式を待つ新国立競技場へ足を伸ばした。荘厳な調べが歩道にまで響く。リハーサルのさなからしい。立ち止まってしばらく耳を澄ませてみた。それでも実感は湧いてこなかった。この街で1週間後に五輪の幕が上がる。