「つぶやき怪谈」12
稲川淳二
これは、関西にあったホテルの话なんです。
このホテルは、1阶がフロントとロビー、そして、吃茶レストランがあって、结婚式披露宴の、予约相谈受付の窓口がある。2阶には、着付け室と美容室、写真のスタジオがあって、チャペルは别栋になってる。3阶には、宴会场がふたつあって、5阶から上は客室になってるんですがね。4阶はなぜか、いつの顷かフロア全体が使われてないんですよ。 ここにも宴会场がひとつあるんですがね、下の宴会场の音が5阶の客室に闻こえてうるさいってことと、最近は、宴会が随分减ったからというのが、ホテル侧の理由らしいんですけどね
さて、5月の末に友人の结婚披露宴があるんで、このホテルにやってきた、仮にC子さんとしときましょうか。 この时季は结婚式のシーズンですよね。 风薫る5月、そして6月のジューンブライドとなるわけですから。
ホテルの、3阶にある2つの宴会场は、披露宴で、人がごった返してるわけだ。 ひとつの披露宴が终わると、すぐ次の披露宴、といった具合ですから、ロビーは人でごった返してる。 C子さん、披露宴に出る前に、トイレに行っておこうかと思って、妇人用トイレの方へ行ってみると、顺番を待つ人の列が、できている。
C子さん (やだなぁ、こんなとこでするの…) と思いながら、辺りを见回すと、向こうに4阶へ上がる阶段があるんで、上に行ってみようと思って、 阶段を”トントントントン”上がってゆくと、4阶のロビーは、薄暗くてシーンと静まり返っていて、人の姿が全くない。
3阶と比べて、えらい违いなんですね。 どうやら、この阶は使われていないらしい。
(ちょっと気持ち悪いなぁ…) と思ったんですが、ま、别に用を足すだけですからね、急いですませちゃえば、いいわけですよね。で、ふっと见ると、壁のトイレの表示板が目に入ったんで、 (あぁ、あっちだなぁ) と思って、行ってみた。ロビー奥の通路を突き当たって、右手が绅士、左が妇人用。 で妇人用に、入ると、明かりが点いてない。 壁のスイッチを”カチッ”っと押すと、ボンヤリと明かりが点いた。きちんと扫除はされてるんですが、もう长いこと、使われていないのがわかった。 何となく気味が悪い…。 (でも、まぁ、长くいるわけじゃないし。) C子さん入って行った。 全く意识してないんです。 本当に无意识に、奥からふたつ目の个室の扉を、ぐっと押して中に入ると、”パタン”と闭めて、键をかけて、棚にバッグを置いて、(さぁ…)と思ったその时に、 “カン、コン、カン、・・ カン、コン、コン、カン、コン、・・” 靴音がトイレに入ってきた。(あぁ、下がいっぱいなんで、この人もここへ入りにきたんだなぁ) と思った。と、 ”コンコン” 扉をノックする音がした。 "ガチャ、 ギィィーー" 扉が开いた。 で、少しの间があって、 ”ドン” 、と闭まった。 で、また、 ”カツン、 コツン、 カツン” と靴音がしたんで、 (あれ?入らなかったのかな?) と思ってると、 また”コンコン”、 扉をノックする音がする。
で、”ガチャ、 ギィィーー” 扉が开いた。
で、しばらくすると ”ガチャ、ギィーー、 ドンッ” って闭まった。
そしてまた”カツン、 コツン、 カツン” 靴音がして、今度は、自分の隣の个室の前で、靴音が止まった。 (この人は何をしてるんだろう?おかしな人だなぁ)と思ってると、 ”コンコン” 、扉をノックした。
気になったもんですから、耳をそばだてて、様子をうかがっていると、 ”ガチャ、ギィィィーー” 扉が开いて、隣から、低い女の声で 「 无 い 」 って言うのが闻こえたから、うわっと思った。 「何?!気持ち悪い!」 ”ギィィーー ドン”、 扉、闭まった。そして、 ”コン、 カン、 コン、 カン”、自分が入ってる个室の前で、靴音が止まった。 Cさん、扉に向かって座ってますからね、扉を挟んで、ちょうど向かい合う形になったわけだ。 ???と、 ”コンコンコン”とノックしてきた。
すると、しばらく间があって 「私の指轮、ありませんか?」 と、扉の向こうから低い女の声がした。
トイレに入っている人间に、声挂けるなんて、常识外ですからね、一体この人、何を考えてるんだろうと思ってね、つっぱねるように、 「ありませんよ!」って答えた。と、またしばらく间があってから、
「ホントにありませんか?」 って声がした。 でも、今度は、扉の向こう侧からじゃないんですよ。